世界で広がる気候訴訟と日本の現状
気候変動問題への対策は各国で進んでおり、オランダ、ドイツ、韓国などでは、国の温室効果ガス削減目標が不十分であるとして違法判決が出ています。国際司法裁判所(ICJ)も、パリ協定の目標達成に向けた対策を国が講じる義務があるとの勧告的意見を発表しました。しかし、日本では具体的な法的対策が進んでいない状況が指摘されています。
この訴訟は、気候変動対策に消極的な国を相手取り、全国各地の原告が、平穏生活権(気候享受権)の侵害による損害賠償を請求するものです。日本政府が2025年に閣議決定した温対計画や、パリ協定に基づく温室効果ガス排出削減目標(NDC)が、世界の平均気温上昇を1.5℃未満に抑える目標に整合していないこと、およびその目標を法律に定めていないこと(立法不作為)が違法であると訴えられています。
訴状の概要はこちらで確認できます。
https://x.gd/Rs6pu
昨年12月の一次提訴では、学生や高齢者、事業に影響が出ている建設会社の経営者など452人が原告となりました。経済思想家の斎藤幸平氏やアーティストのコムアイ氏なども賛同者として名を連ねています。
今回の二次提訴では、熱中症で命の危険を感じた人、一次産業従事者、子どもたちなど、さまざまな背景を持つ430人超が新たに原告に加わりました。これにより、900人以上の原告が国の責任を問い、司法の判断を求めることになります。
呼びかけ人には、斎藤幸平氏(経済思想家)、明日香壽川氏(環境学者)、鮎川ゆりか氏(千葉商科大学名誉教授)、eri氏(アクティビスト/アーティスト/DEPT)、加藤登紀子氏(ミュージシャン)、河合弘之氏(脱原発弁護団全国連絡会共同代表)、コムアイ氏(アーティスト)、志葉玲氏(ジャーナリスト)、関野吉晴氏(探検家)、吉岡忍氏(ノンフィクション作家)といった著名人が名を連ねています。

原告たちの声:気候変動が生活に与えるリアルな影響
2026年4月2日に行われた二次提訴後の記者会見では、原告の方々から気候変動が自身の生活に与える影響について具体的な声が寄せられました。

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志葉 玲氏(ジャーナリスト)
「今回のイラン情勢を見ても、日本の石油依存がいかに脆弱か分かります。気候変動対策はさらに重要になるでしょう。欧州では太陽光発電を大幅に拡充し、わずか3年で原発何十基分もの発電量を実現しています。メガソーラーの問題はありますが、農地の副収入になるような共存策も推進すべきです。」 -
渡辺さん(食料品店・販売員)
「仕事柄、気候変動を身近に感じています。食品の値上がりが著しく、毎月のように値札を替えています。以前の2倍、3倍になった商品もあり、日々の食卓に並んでいたものが手の届かないものになってしまいました。このまま気候変動が進めば、食糧危機に直結すると日々感じています。」 -
橋本さん(野菜農家/埼玉県)
「野菜が大きくならず、育てるのが大変です。夏の猛暑での作業はすぐに頭が痛くなり、熱中症対策で大量の水を飲んでも逆にお腹を壊すこともあって本当に大変です。いつまで暑くなり続けるのか不安です。私は50歳ですが、農業は土地と密接な職業なので、過酷な環境での農業を次の世代には渡せません。気候変動は、みんなの問題です。」 -
田中さん(ライチョウ調査員/新潟県)
「ライチョウは絶滅危惧種の特別天然記念物で、高山地帯に生息する希少な鳥です。新潟県の火打山は、日本最北のライチョウ生息地ですが、餌となる高山植物が年々減少しています。標高が154m高くなると気温が1℃上昇すると言われていますが、平均気温が1℃上昇することは、ライチョウの繁殖域が154m高くなり狭くなることを意味します。」 -
伊与田さん(環境NGO)
「21世紀になった今でも、水俣病の被害が新たに認定されたり、裁判で水俣病であることが認められたりする事例が続いています。企業と政府による失敗の歴史が、気候変動という別の形で繰り返されていると感じます。」
気候変動による被害状況を調査:健康、精神、経済活動への影響
本訴訟の原告を対象に、気候変動による影響を調査したところ、健康面、精神面、そして経済活動に具体的な支障が出ていることが分かりました。(有効回答数:245名)
60%以上が体調不良、約1割が既往症悪化
暑さによって何らかの体調不良を感じた経験がある人は60.8%に上りました。また、既往症が悪化したと感じる人も10.6%いることが判明しています。


40%以上に精神的なストレス症状
気候変動に対する不安により、気分の落ち込み、うつ症状、不眠、動悸、集中困難などのストレス症状が出ていると回答した人は41.6%に達しています。

過半数が仕事に影響、約2割が収入・売上に影響
気候変動により仕事に影響があったと回答した人は51%と過半数にのぼり、収入・売上にも影響があったと回答した人は18.4%でした。


これらの原因として最も多く挙げられたのは「暑さ/高い気温」(85.6%)で、「気候の極端化(四季が失われつつあること等)」(45.6%)も大きな要因とされています。

約90%が夏のエアコン使用頻度が増加したと回答し、24.3%の人が冷房器具を新たに設置したり、台数を増やしたりしていることも明らかになりました。


気候正義訴訟を支援するクラウドファンディング開始!
今回の二次提訴と合わせて、気候正義訴訟を支援するためのクラウドファンディングが「CALL4」で開始されました。この訴訟は、今の気候対策で本当に十分なのかを司法の場で問いかける挑戦です。未来の世代に「なぜ何もしなかったの?」と聞かれないような社会を目指しており、支援が呼びかけられています。

クラウドファンディングの詳細はこちらです。
https://www.call4.jp/info.php?type=items&id=I0000167
経済思想家で東京大学大学院准教授の斎藤幸平氏も、この訴訟への思いをコメントしています。

斎藤 幸平さん(経済思想家/東京大学大学院准教授)
「私がこの訴訟を提起したのは、気候変動がもはや『将来の問題』ではなく、すでに私たちの生活と人権を脅かしていると強く感じたからです。猛暑や豪雨は日常化し、その影響は子どもや高齢者、社会的に弱い立場にある人々ほど重くのしかかっています。一方で、気候危機を引き起こしてきた責任と、被害の受け方は著しく不均等です。にもかかわらず、日本政府の対策は科学的にも人権の観点からも不十分なままです。
この不作為を前に沈黙することは、将来世代への責任放棄だと思いました。裁判は社会を一気に変える魔法ではありません。それでも、市民が声を上げ、法の場で問い続けることに意味があると信じ、この訴訟に参加しました。一緒に大きなうねりにしていきましょう!」


