「CRAWL」プログラムが実現した展示
この展覧会は、株式会社リクルートホールディングスが運営するアートセンターBUGのアートワーカー(企画者)向けプログラム「CRAWL」で選出された坂田ミギー氏の企画です。「CRAWL」は、企画書を基にメンターとの対話や参加者同士の意見交換を通じて、アートワーカーの活動を支援し、未来につながるネットワークを築くことを目指しています。
キベラの若者たちは、「将来の夢はジャーナリスト」と語る人が多いと言います。これは、社会から自身の存在を無視され、疎外されてきたという実感があるからだそうです。寄付されたカメラとプロの写真家・映像作家による技術指導をきっかけに、彼らは自身の暮らし、喜びや苦しみ、働く姿や生きる希望を記録し始めました。これは単なる記録ではなく、「語る力」を獲得していく過程であり、これまで外部の視点によって一方的に消費されてきた「スラム」のイメージを、自らの手で再定義する試みでもあります。
本展では、100点を超える作品に加え、アーティスト自身による作品解説映像も展示されます。会期中には、キベラの若者たちに質問を送り、後日返事が届く「対話」の機会も設けられるとのこと。東京の中心で、ケニアのスラムの視点に触れることで、「表現すること」の根源的な力や喜びを問い直す場となりそうです。
展覧会のみどころ
1. ラベリングされた風景の再発見
「スラム」という言葉から貧困や犯罪といったステレオタイプなイメージが思い浮かびがちですが、そこには人々の営みや喜び、誇りといった多様な瞬間が存在します。本展では、キベラで生まれ育ったアーティスト自身が、自らの視点で日常の風景や伝えたい物語を表現。自ら脚本を手がけ、映像制作に取り組んだ作品も含まれています。
これまでの多くの作品がキベラを「素材」や「舞台」として扱ってきたのに対し、本展では、そこに暮らす人々が自らのコミュニティや経験を語る主体となることに焦点を当てています。外部の視点によって語られてきた風景を、内側からの表現によって見つめ直す試みです。
2. 制約のなかで生まれる表現の輝き
出展アーティストの多くは、自身のカメラやパソコンを持たず、限られた自己資金で機材をレンタルしたり、データ通信量に制約がある中で制作を行っています。高解像度のデータを保存するストレージも不足している場合が多く、気軽に多くの作品を高解像度で保存できる環境ではありません。
そのため、展示作品の中には、画質や編集の面で差異として知覚されるものも含まれています。しかし、これは個人の技術や意欲によるものではなく、利用可能な機材やソフトウェア、通信環境といった制作条件の違いから生じています。どのような環境にあっても人は表現し創作できる一方で、使用できるツールの制限は作品の質に影響を与えます。
本展では、作品の完成度を個人の能力や努力に帰するのではなく、表現の機会がどのような条件のもとで得られているのかという視点から、選択肢の不均衡を生み出す社会構造にも目を向けます。その中でも立ち上がる表現の喜びや創造の熱意を感じてほしい、という願いが込められています。
3. 作品の見え方と評価の変化を体験する
作品の制作環境や背景を踏まえて鑑賞することで、同じ作品でも見え方が変化していく体験が提示されます。もし制作環境や社会的背景を知らずに作品を見た場合、画質や音質、編集の手法といった形式的な要素が、技術的な完成度として捉えられてしまうかもしれません。しかし、それらがどのような制作条件のなかで生まれているのかを知ったとき、作品に対するまなざしは変化します。
本展は、解像度や編集手法といった形式的な基準だけでは捉えきれない表現の価値に触れることで、鑑賞者自身が無意識に持っている評価の前提や、作品を見る際のまなざしを見つめ直すきっかけとなることを目指しています。
企画者・坂田ミギー氏からのメッセージとこれまでの取り組み

企画者の坂田ミギー氏は、約13年にわたりキベラで教育支援や表現活動に関わる中で、「ここで暮らす人々にしか語り得ない経験や風景があるのではないか」と考えてきました。この企画は、キベラに暮らす若者やアーティストが、自らの視点で日常や社会を記録し、発信できる機会を創出することを目的に構想されました。
その具体的な取り組みとして、映像作家の池谷常平氏とフォトグラファーの政近遼氏が中心となり、日本国内で使われなくなったカメラを収集・寄付し、現地の若者に写真・映像制作の技術指導を行うプロジェクト「KIBERACTION」を実施しています。

寄付されたカメラは現地メンバーによって共同管理され、申請制で共有利用できる仕組みのもと、継続的な制作活動に活用されています。ワークショップ参加者の中には、自ら脚本を執筆し、短編映像作品を制作するなど、主体的な創作活動を行う若者も現れました。坂田氏は、こうした姿を目の当たりにする中で、キベラに暮らす人々自身が、自らの経験や視点をもとに地域を語る作品を生み出し始めていることを実感しているそうです。
坂田ミギー氏は2013年にキベラを初訪問して以来、現地コミュニティと親交を深め、2018年からは生理用品の提供や月経教育の支援を開始。2022年には、持続可能な支援の仕組みを構築するため、エシカル・クリエイティブ・コレクティブ「SHIFT80」を立ち上げ、キベラの人々と協働した制作活動を行っています。教育機会の確保に向けた奨学金支援や学校運営サポート、マイクロビジネスの起業支援など、多岐にわたる活動を継続しています。これらの経験が、キベラの人々自身が自らの視点で地域について語る機会の必要性を認識させ、今回の企画につながりました。
関係者プロフィール

-
坂田ミギー:NPO法人SHIFT80代表理事 / 株式会社こたつ共同CEO、クリエイティブディレクター。Forbes JAPAN 2025年「NEXT100」選出、価値デザインコンテスト グランプリ・経済産業大臣賞など受賞歴多数。
-
KIBERACTION:映像作家・池谷常平氏とフォトグラファー・政近遼氏を中心とした、困難な状況にある若者のクリエイティブ活動を支援するコレクティブ。
-
堅田真衣:博報堂のデザイナー/アートディレクター。自宅で書店兼ブックコミュニティ「Daily Practice Books」を運営。
出展アーティスト(予定)
-
アシニナ・イブラヒム/Asinina Ibrahim
-
ビッグ・ダビド/Big_davido
-
ディジー・ディジー/Dizze Dizze
-
フランクリン・オランド/Frankline Olando
-
イスマエル・フォトグラフィー/Ismael Photography
-
エムシー・ポポ/Mc Popo
-
ラムカリノ・ケーイー/Ramkalino KE
-
ラマダン・サイード・アリ/Ramadhan Said Ali
-
サー・ジェリー/Sir.jeree
-
スティーブ・バナー/Steve Banner
-
ヴィン・セカニ/Vin sekani
-
エイトケーティーヴィー・キベラティーヴィー/8KTV KIBRATV
作品画像




関連イベント
トークイベント
-
「レンズを介した対話 ― キベラの若者との交流で見えてきたこと」
2026年5月9日(土)19:00〜20:30
登壇者:池谷常平(ビデオグラファー)、政近遼(フォトグラファー)
司会:坂田ミギー -
「キベラとともに歩んだ30年」
2026年5月17日(日)15:00〜16:30
登壇者:早川千晶(社会活動家 / ジャーナリスト)
司会:坂田ミギー -
「ともにつくる仲間としてのキベラ」
2026年5月23日(土)19:00〜20:30
登壇者:藤井賢二(株式会社たきコーポレーションCDO / クリエイティブディレクター)
司会:坂田ミギー -
「アーティスト・イン・レジデンス成果発表」
2026年5月30日(土)19:00〜20:30
登壇者:Sir.jeree(フォトグラファー)、Frankline Olando(フィルムメイカー)
司会:坂田ミギー
企画者によるガイドツアー
-
2026年4月26日(日)15:00〜15:30
-
2026年5月9日(土)15:00〜15:30
-
2026年5月23日(土)15:00〜15:30
ガイド:坂田ミギー
詳細・予約方法はウェブサイトやSNSでご案内されます。
展覧会概要
-
タイトル:アートワーカー(企画者)向けプログラム「CRAWL」選出企画 キベラ“スラム”から見つめる世界 ―語られてきた私から、語る私へ。―
-
会期:2026年4月25日(土)〜5月31日(日)
-
主催:BUG(株式会社リクルートホールディングス)
-
共催:SHIFT80
-
協力:KIBERACTION、Daily Practice Books
-
開館時間:11:00〜19:00 火曜休館 入場無料 ※ただし5月5日(火)は開館します。
-
会場:BUG 〒100-6601 東京都千代田区丸の内1-9-2 グラントウキョウサウスタワー1F
-
交通アクセス:
-
JR東京駅八重洲南口直結
-
東京メトロ京橋駅8番出口から徒歩5分
-
東京メトロ銀座一丁目駅1番出口から徒歩7分
-
-
BUGウェブサイト:https://bug.art/
※BUGでは様々な事情を持つ皆様をお迎えできるよう、スタッフが可能な範囲でサポートや情報提供に努めています。詳細は会場ウェブサイトをご確認ください。



