「だいちゃん」誕生のきっかけ
ザ・ハーモニー株式会社の代表である高橋氏は、自身が介護士として認知症介護の難しさや現場の人手不足を目の当たりにしてきました。その経験から、「テクノロジーの力で認知症介護の課題を解決し、もっとハッピーな介護を提供したい」という強い思いを抱き、2019年4月から「だいちゃん」の開発をスタートさせました。

高橋氏は、「だいちゃん」が認知症高齢者の方々が安心して楽しく過ごせるよう、「もう一人の小さな介護士」として、不安や孤独感を和らげる存在になることを願っています。介護する側とされる側の双方が幸せになれる環境作りを目指し、今回の協働で得られた新しい視点も取り入れながら、より良いコミュニケーションの形を追求していく方針です。
現場が抱える課題と利用者の切実な声
「だいちゃん」は「見た目がかわいい」「笑顔が増え、発話も多くなった」と利用者や介護士から好評を得ています。しかし、介護施設内には電波が届きにくい場所も多く、クラウドからのAI応答が不安定になるという課題がありました。
利用者の声の中には、「だいちゃんに話しかけても無視されることがある」「だいちゃんが聞き取ってくれず何度も繰り返し喋らされる」といった改善要望も聞かれました。通信環境が常に良好であれば問題ないのですが、医療介護の現場ではそうはいきません。そのため、通信が途絶えても利用者に喜んでもらえる機能が強く求められていました。
この課題に対し、「だいちゃん」開発チームは、利用者が話したいタイミングで音声を取得できる「割り込み機能」の開発に注力していました。自然な対話を続けるためには、利用者がロボットに合わせるのではなく、ロボットが利用者に合わせることが重要だと考えていたからです。
マナビDXクエストチームとの協働
ザ・ハーモニー株式会社は、経済産業省が主催する実践的なDX学習プログラム「マナビDXクエスト 地域企業協働プログラム」に参加しました。このプログラムでは、AI・DXのPBL演習課題に取り組んだ受講生チームが、企業と協働して現実の課題解決を目指します。
協働チームは、医療業界でのDX経験もあるDXソリューションアーキテクトの三橋氏(ハンドルネーム:漁neko)をリーダーに、様々な年代・職種の社会人メンバー5人で構成されていました。当初、ザ・ハーモニー株式会社は学生チームを想定していましたが、経験豊富な社会人チームとの出会いは、課題解決に新たな視点をもたらしました。




利用者動画やアンケート結果の分析を進めると、「ただ聞いてくれるだけの機能が欲しい」という要望が予想以上に多いことが判明しました。認知症高齢者にとって、数秒のラグは「拒絶」と感じられ、孤独感や焦燥感を強めてしまう原因になりえます。忙しい介護スタッフが常に付きっきりでいることは難しいため、「だいちゃん」には「確実に受け止める役」が期待されていたのです。
この発見に基づき、チームは2ヶ月間の協働のゴールとして「通信不可条件下、傾聴を重視した初期PoC」を行うことを決定しました。
UX観点から生まれたPoC「寄り添いAI傾聴エンジン」

今回のPoCでは、通信不可という制約の中で、ローカルで動作する軽量LLMと音声合成技術を活用しました。傾聴では、相手に共感を示すためにオウム返しや相槌が基本ですが、ロボットの場合、タイミングが遅れると逆にイライラさせてしまう可能性があります。そのため、オウム返し機能は採用せず、利用者の感情に合わせた相槌を素早く返す設計に注力しました。これにより、“無反応”と感じられる時間を減らすことを目指しました。
この「寄り添いAI傾聴エンジン」は、無反応時間の低減と共感的な初期応答を実現し、利用者が「受け止められている」と感じられる設計の可能性を示しました。ザ・ハーモニー株式会社は、この協働で得られた新しいアプローチを今後の製品改善に活かし、より利用者に寄り添うコミュニケーションの実現を目指していくとのことです。
「だいちゃん」開発の今後の展望
「だいちゃん」は、認知症の方が自ら可愛がりたくなるデザインと、会話をリードして回想療法を促す独自のAIシステム(特許取得済)が特徴で、すでに200台以上が介護施設や病院、利用者の自宅で導入されています。
今後、「だいちゃん」はさらなる進化を目指しており、以下の構想で開発を進めていく方針です。
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コミュニケーション機能の大幅なアップデート
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発話中の音声聞き取り機能の実装:会話の途中でも相手の言葉を聞き取れるよう改良。
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予測不能な会話への対応力強化:データベースにない会話にも柔軟に対応できるようAIをチューニング。
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パーソナライズ機能の強化
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話し手の自動認識と記憶の保持:個人を識別し、継続的な関係性を前提とした対話ができるよう開発。
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会話の深掘り度合いの自動判断:認知症の状態や反応に応じて、会話の深さを自動で調整する仕組みを検討。
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家族の声色での発話:将来的には家族の声を学習し、その声色で話しかける機能の追加も視野に。
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提供領域の拡大
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認知症高齢者向けの対話システムを基盤に、発達障害を抱える児童などへの活用も検討。
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新たなラインナップの構想とエビデンスの取得
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新モデルの開発構想:現在のぬいぐるみの形状に加え、女の子・動物バージョンなど、新たなラインナップを展開。
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学術的エビデンスの構築:大学と連携し、ラポール形成による効果の検証など、客観的なエビデンス取得を進める。
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ザ・ハーモニー株式会社の開発チームは、AIおよびフィジカルAIの技術発展に伴い、将来的に介護現場へヒューマノイド(人型ロボット)が普及する未来を見据えています。「だいちゃん」の開発・運用を通じて蓄積された「認知症の方に特化した独自の対話システム」をヒューマノイドに搭載・提供していく構想を描いているとのことです。「だいちゃん」の社会実装を通じて、誰もが質の高いケアを受けられる社会の実現に貢献していくことが期待されます。
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ザ・ハーモニー株式会社: https://the-harmony.net/
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認知症コミュニケーションロボット「だいちゃん」公式サイト: https://daichan.life/


