社会課題と向き合うアート、今年は「戦争と平和」テーマも新設
2026年度の公募では、国際情勢の緊迫化を受け、新たにテーマ部門「戦争と平和」が設けられました。従来の自由部門と合わせて、戦争や平和、国境や移民、コミュニティのあり方など、現代社会の課題に取り組むプロジェクトが日本国内外から82件(海外3件、国内79件)も応募。その中から、特に注目すべき10件の多様な事業が採択されました。
また、2023年度からスタートした長期支援助成では、「Don’t Follow the Wind(ドンド・フォロウ・ザ・ウィンド)」プロジェクトが継続支援となります。
採択された注目の10プロジェクトを紹介
単年度支援助成(30万円~150万円/件、総額560万円)
山本高之氏「創造的であること, 共有, 対話的であること(条件あり)ー制度的無責任の演劇的再演と映像による可視化の試みー」
日本の地方美術館で起きた出来事をきっかけに、組織や制度の中で責任がどう扱われ、見えにくくなるのかを探るプロジェクトです。社会学や法律、美術史など多様な視点から資料を読み解き、対話を重ねることで、社会の傷を癒し、アートと社会の未来の関係を探ります。

小田原のどか氏「被差別部落の歴史・記憶とその継承をめぐる触覚的実践」
大阪市住吉地区の被差別部落の歴史や表現の蓄積に、触覚的なアプローチと現代美術の手法で新たな息吹を吹き込む試みです。地域住民との対話を通じて、被差別の歴史を持つ地域とアーティストの協働モデルを築くことを目指します。小田原のどか氏の活動はこちらから。

深澤孝史氏「佐渡もう一つの世界遺産推進センター」
2024年に世界遺産登録された「佐渡島(さど)の金山」の、近代における植民地主義や朝鮮人労働の歴史にも目を向け、佐渡の人々が続けてきた平和活動や慰霊の意思を伝えるプロジェクト。金山の労働歌を朝鮮語に翻訳した慰霊の唄の制作や、埋もれた資料の公開を通じて、共に追悼する場を創出します。深澤孝史氏のウェブサイトはこちらです。

堺国際市民劇団「過去・現在・未来の戦争被害者たち~ヴォイシィズ・オブ・ヴィクティムズ」
「殺される側」の視点から戦争を問い直す演劇プロジェクト。過去や現在進行形の戦争被害の記憶を、演劇という手法で社会に訴えかけます。バングラデシュやミャンマーのアーティスト、障害者、在日の方々とのコラボレーションを通じて、多角的なメッセージを届けます。

KANTO(佐藤浩一+ARCHIVE)「不可視のエコロジーを可視化する」
分解されにくい「永遠の化学物質」PFASによる健康被害と環境問題に焦点を当てたプロジェクト。特に東京・武蔵野エリアでのPFAS汚染の実態を、住民参加の疫学調査を通じて可視化し、コミュニティの新しい風景を住民とともに探ります。KANTOのウェブサイトはこちら、佐藤浩一氏のウェブサイトはこちら、ARCHIVEのウェブサイトはこちらです。

藤本純矢氏「LIVE DieAter『沈黙にふれる、声の触卓』」
摂食障害の当事者による「自助会」をライブ配信し、孤立した個人の苦しみが対話を通じて自己肯定的な物語へと変容するプロセスを可視化します。生配信という形式で、ありのままの言葉が響き合う「場」を設計し、社会とつながる新たな連帯の形を提示します。藤本純矢氏のウェブサイトはこちらです。

徐秋成氏「あなたたちはわたしたちをどう見ているのか?何を思っているのか?」
日本に暮らす多様なルーツを持つ人々、特に日本語を母語としない外国人やクィアを対象に、読書会や演劇ワークショップを通じて共同制作を行います。マイノリティとしての生活経験を共有し、日本社会の見えにくい構造に光を当て、デジタル映像演劇としての発表も視野に入れています。徐秋成氏のInstagramはこちらです。

齊藤幸子氏「クルド人女性と表現を通してつながる」
埼玉県川口市のクルド人コミュニティで、家父長制の中で孤立しがちな女性たちが自らを表現する手段を見つけ、自信を持って多様な交流をする機会と場を創出するプロジェクト。写真家である作家が、彼女たちの内なる可能性を引き出し、社会とつながるきっかけを作ります。齊藤幸子氏のウェブサイトはこちらです。

社会彫刻の夕べプロジェクトチーム「社会彫刻キャラバン」
全国の大学を巡り、学生支援の現場やゼミを訪ねながら、障害のある人の学びや暮らしをめぐる課題を、映像上映、対話、ワークショップ、リーフレットを通じて教職員・学生と共に考えるアートプロジェクト。発達障害に特化し、「社会モデル」をベースに、決して容易ではない「共生」の実現を問いかけます。

長期支援助成(50万円/件)
- Don’t Follow the Wind「Don’t Follow the Wind」(2023年度から継続支援)
審査員は各分野の専門家たち
これらのプロジェクトは、以下の専門家たちによって厳正に審査されました。
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工藤安代氏(NPO法人 ART&SOCIETY 研究センター 代表理事)
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小泉明郎氏(アーティスト)
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藪前知子氏(東京都現代美術館学芸員)
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山本浩貴氏(文化研究者、アーティスト、実践女子大学文学部美学美術史学科准教授)
まとめ:アートでより良い社会を
一般財団法人川村文化芸術振興財団は、コミュニティや社会に深く関わり、地域社会や住民とともに制作や活動を行うソーシャリー・エンゲイジド・アートプロジェクトが、日本国内でますます活発になることを願っています。アートが社会をより良くする力を持っていることを、これらのプロジェクトが示してくれることでしょう。財団の詳しい情報や活動はこちらをご覧ください。
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