京都から全国へ、深化する共同研究
セッションの冒頭では、株式会社ルリアンの会長であり、相続工学研究のリーダーを務める藤巻米隆氏が登壇しました。藤巻氏は、過去4年にわたり京都で共同研究の成果発表を続けてきた歩みを振り返り、「伝統ある日本オペレーションズ・リサーチ学会で発表の機会をいただいたことは、非常に喜ばしく、光栄なこと」と学会関係者への謝辞を述べました。同社が保有する相続データが学術的な理論によって磨かれることへの期待を語り、空き家や資産の域外流出といった相続を起因とする社会課題の解決に向けた強い意欲を示し、挨拶を締めくくりました。
注目の研究発表
1. 相続における戸籍収集手続きの工程分析

株式会社ルリアンの小西弘樹氏らが発表したこの研究では、同社のプラットフォームで2024年に取り扱われた約422件の相続案件データを詳細に分析しました。その結果、配偶者や子が相続人となる「第1順位相続」の標準的な作業時間が452分であるのに対し、兄弟姉妹が相続人となる「第3順位相続」では921分と、2倍以上の時間を要していることが明らかになりました。
研究では、現在各自治体に対して個別に行う必要がある戸籍収集が大きな社会負荷となっていると指摘。行政DXの推進によって「一括請求」が可能になり、請求先自治体数を1つに集約できれば、戸籍等収集作業の時間を大幅に短縮できると提言しています。発表者の小西氏は「家族のあり方が多様化する中、適切な行政改革が社会負荷軽減につながる」と述べました。
2. 大規模データからみる孤立死リスクの構造:金融資産蓄積と地理的隔離の影響

京都大学との共同研究として、渡邉文隆氏らが「孤立死は貧困層の問題」というこれまでの通説を覆す結果を発表しました。株式会社ルリアンのプラットフォームに蓄積された1万3,000件を超える相続データを分析したところ、金融資産の多寡は孤立死の発生と統計的な関連性がなく、むしろ配偶者の有無や家族との距離といった「人間関係の脆弱性」が主な要因であることが判明しました。
発表の最後に、京都大学の渡邉特定准教授は「地域コミュニティとの絆や社会参加が大事。特に、家族と離れて暮らす比較的若い高齢層に対しては、地域とのつながりを導入する『社会的処方』が有効な対策となり得る」と述べました。また、孤立死した人々が残した未活用の資産には大きな慈善的価値がある可能性にも触れ、今後の社会還元への期待を示しました。
3. 地籍調査の進捗に関する分析 ―地理空間データと民間相続データによる考察―

筑波大学との共同研究として、佐藤佳乃氏らが発表したこの研究では、従来の面積ベースではなく「資産価値」を指標に地籍調査の進捗を分析しました。その結果、水戸市や日立市などの都市部で整備の遅れが顕著であることが判明しました。茨城県の相続案件(345筆)の分析では、被相続人の約6割が市外・県外に居住する「遠隔地所有」であり、これが境界確認を困難にする大きな要因となっています。
地籍調査の全域完了に246年を要するとの試算がある中、行政主導の調査には限界があると考えられます。そこで本研究では、相続登記の義務化を好機と捉え、相続のタイミングで民間のミクロなデータを活用し、効率的に調査を推進するモデルを提言しました。民間の力を活かすことが、災害復興の迅速化や土地取引の円滑化といった社会資本の質的向上に直結すると考えられます。
相続工学とは

相続工学とは、株式会社ルリアンが運営する相続に関するプラットフォーム事業「みんなの相続窓口」で蓄積されたデータを活用し、相続を工学的なアプローチで分析する独自の研究です。空き家や財産の首都圏一極集中など、相続をきっかけとして生じる社会課題の解決を目指しています。
2021年4月には筑波大学の社会工学に関する部門との共同研究を開始し、「相続工学」と銘打った相続に関するメカニズムの解析に取り組み始めました。従来、法学や行政論の中で研究されてきた相続について、工学の切り口で研究することにより、ユニークなテーマの論文が生まれています。2024年には麗澤大学(千葉)に相続工学研究センターを開設し、さらに研究を進めています。

株式会社ルリアンの公式サイトはこちら: https://www.le-lien.co.jp/


