開発のきっかけは「回想法」
近年、生成AIの進化は目覚ましく、単なる業務効率化だけでなく、人と人との関係性を豊かにする「ヒューマンイノベーション」への活用が注目されています。TBWA HAKUHODOは、少子高齢化が進む日本社会での高齢者支援をテーマに、この新しいデバイスの企画・開発を始めました。
開発において着目されたのは、過去の写真や音楽などを活用し、当時の思い出を振り返って話すことで認知症予防などにつなげる「回想法」です。生成AIを活用して、懐かしい過去の出来事や記憶を振り返る行為を支援できないかと考え、文章生成AIと音声生成AIを組み合わせた独自のシステムを開発。「RADIO TIME MACHINE」が誕生しました。
このデバイスを通じて、高齢者が懐かしい記憶を振り返るだけでなく、利用者同士や介護スタッフとのコミュニケーションが深まることも期待されています。
「RADIO TIME MACHINE」ってどんなデバイス?
「RADIO TIME MACHINE」の筐体デザインは、1950年代から60年代のラジオ機器がモチーフとなっています。液晶画面には周波数ではなく西暦が表示され、ダイヤルを回して1950年から2025年まで1年刻みで操作できます。聞きたい西暦に合わせると、その年の操作している日と同じ日付のラジオ番組風音声コンテンツが再生されます。
音声コンテンツでは、その西暦の今日のニュースをラジオパーソナリティが紹介し、ニュースの合間には当時のヒット曲が流れるため、当時の空気感を再現したラジオ番組のような体験を楽しめます。コンテンツは毎日自動的に更新され、約20分間でループするように設定されています。
例えば、3月5日に1950年を選択すると、以下のような音声コンテンツが再生されます。
皆様、いかがお過ごしでしょうか。日ごとに寒さも和らぎ、春の足音が少しずつ近づいてくる今日この頃、このラジオタイムマシーンで穏やかなひとときをお過ごしいただければ幸いです。本日も、日本の活気ある出来事を皆様にお届けいたします。 まずは、鉄道のニュースからでございます。先日、国鉄の新しい電車が完成したのをご存知でしょうか。東海道線で活躍する新型車両、八十系電車、通称「湘南電車」がその姿を現しました。二つ扉のクロスシートでゆったりと座れ、前面は二枚窓という、実に洗練された造りとなっております。わたくしも、この新しい電車で、いつか海を眺めながら旅をしてみたいものだと思っております。車窓を流れる景色を肴に、駅弁を広げる日も近いかもしれませんね。それでは、この旅路に思いを馳せる時に聴きたい一曲です。高峰秀子で「銀座カンカン娘」です。


AIがラジオ番組を自動生成する仕組み
「RADIO TIME MACHINE」は、最新の生成AI技術を活用しています。過去の出来事は、Wikipediaを参照して独自に作成されたニューストピックリストに基づいています。このリストをもとに、生成AIが当時のラジオ番組を模したニュース原稿を自動生成します。さらに、AIボイスが当時のラジオ番組風に読み上げることで、まるで過去のラジオパーソナリティがその日の出来事を話しているかのような音声コンテンツが生成されます。
ヒット曲については、当時の流行を反映した独自のヒット曲リストを作成し、デジタル配信用の音源データをニュースの合間に再生することで、ラジオ番組のような構成の音声コンテンツが完成します。
AIボイスは、開発関係者30名以上の声を収録し、それを基に生成されたものです。各年代のラジオ番組に見られる話し方や抑揚、語りのテンポなどを参考に規則性を構築することで、時代感を反映した懐かしく自然な語り口を再現しています。

ニチイ学館と介護施設への導入検証プロジェクト
「RADIO TIME MACHINE」を活用する取り組みの第一弾として、ニチイ学館の介護施設への導入検証プロジェクトが2026年3月5日よりスタートしました。
このプロジェクトでは、高齢者のウェルビーイング向上と、利用者と介護スタッフのコミュニケーション課題の解決を目指しています。過去のニュースやヒット曲に触れることで、利用者の思い出が呼び起こされ、心理的な安定や安心感につながることが期待されています。また、利用者同士の会話や交流が生まれることで、さらなるウェルビーイングの向上に寄与すると考えられています。
介護スタッフ向けアンケートでは、「利用者の見守りやコミュニケーションの難しさ」が課題として挙げられていました。世代の離れたスタッフにとっては会話のきっかけを見つけるのが難しいケースもありますが、「RADIO TIME MACHINE」が共通の話題を提供し、相互理解を深めるきっかけになることが期待されています。


事前実証で驚きの結果
プロジェクト開始に先立ち、1月下旬から2月下旬にかけてニチイ学館の施設で事前実証が行われました。その結果、利用者からは多くのポジティブな反応が得られています。
実証前には両親の名前や若い頃に働いていた会社を思い出せない様子だった利用者も、「RADIO TIME MACHINE」で若い頃のニュースやヒット曲を聴きながら対話すると、即答で記憶を話すなど、過去の記憶を思い出す瞬間が多数見受けられました。
また、「RADIO TIME MACHINE」使用時と非使用時における利用者の様子を、表情解析、骨格推定を用いた活動量解析、発話速度の観点で比較したところ、以下の3つの結果が得られました。
- 笑顔の増加:表情解析の結果、笑顔の値が平均で8.7%上昇しました。中には23.8%も上昇した利用者もいました。

- 身体活動量の増加:骨格推定を用いた身体活動量解析の結果、身振りや手振りが10%増加しました。これは、相手に内容を説明しようとする意欲が高まったためと考えられます。

- 発話量の増加:発話速度の分析結果、1分あたりの発話量が10.8語増加しました。ラジオを聴くことで様々な記憶が呼び起こされ、それを相手に伝えたいという意欲が高まったと推察されています。

これらの事前実証の様子を収めたドキュメンタリームービーも公開されています。



北里大学との共同研究もスタート
今春からは、北里大学医療衛生学部の福田倫也教授らとTBWA HAKUHODOが共同で、「RADIO TIME MACHINE」が高齢者にもたらす作用について研究を開始します。この研究では、認知症の行動・心理症状の抑制効果や、認知症の症状がない高齢者の気持ちの安定さや前向きさの変化を、評価尺度や行動分析、表情分析などの手法で明らかにしていきます。
このような研究を通じて、「RADIO TIME MACHINE」が次世代の高齢者ケアにおける新たなツールとなり得ることを目指しています。
ニチイ学館は、この共同研究の結果を踏まえ、将来的に全国数百カ所ある施設への本格導入も検討していく予定です。
今後の展望
TBWA HAKUHODOは、ニチイ学館との取り組みにとどまらず、「RADIO TIME MACHINE」を活用した新たなプロジェクトを検討しています。介護・福祉領域だけでなく、音楽やエンタテイメント領域など、様々な分野での活用が期待されています。
新規の筐体デザインや廉価版の開発など、デバイス自体のさらなる可能性も秘めており、今後の進化にも注目が集まります。
「RADIO TIME MACHINE」の詳細やお問い合わせは、以下のウェブサイトから確認できます。
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お問い合わせ先:inquiry.otoiawase@tbwahakuhodo.co.jp



