長年変わらなかった避難訓練のリアル
研究で明らかになったのは、現場が「想定を知ったことで、これまでの避難訓練が“想定にさえ足りていなかった”と初めて認識した」という事実です。
静岡県内の保育者(161園・743名)を対象とした調査では、驚くべき結果が出ています。
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園の備えについて「想定にさえ足りていない」と回答した人が54%(400名)
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想定される地震の震度・継続時間について「知らなかった」が60%、「想像していたものと異なっていた」が25%

この「気づき」がなければ、訓練の改善はなかなか進みません。多くの現場では、自分たちの備えが実際の災害想定に追いついていないことを、これまで知る機会がなかったのです。

なぜ避難訓練はアップデートされなかったのか?
避難訓練が長年変わらなかった原因は、現場の努力不足にあったわけではありません。日本の避難訓練は、放送や教員の指示に従って一斉に動く形式が中心でした。そのため、地域で想定されている災害の実態(リスク)と訓練内容を比較する機会がほとんどなく、たとえ想定とズレた訓練であっても「正解」として繰り返されてきた構造的な問題があったと考えられています。
また、保育者や教師が、その養成段階で災害想定やリスク評価に関する専門的な知識を体系的に学ぶ機会が限られていることも、先行研究で指摘されています。
新常識!『避難訓練2.0(Risk to Action)』とは?
本研究では、この課題を解決するために、地域の災害想定(ハザード・被害)を起点に行動を再設計する『避難訓練2.0(Risk to Action)』という考え方を提示しました。
これは、特定の姿勢や行動だけを「正解」とするのではなく、安全の原理原則に基づいて、想定されるリスクに合わせて行動を自ら選択するという考え方に立ち戻り、訓練が実際の災害時に機能するかを見直す新しい枠組みです。
メソッド
被害想定(リスク)を起点とし、そこから逆算して「生き残る行動」を設計します。
実践
介入ツールとして、減災紙芝居『がたぐら』や地震体験マット『YURETA』などが用いられ、身体的な感覚でリスクを学ぶことで、より実践的な対応力を養います。


実証結果:現場の「気づき」が変革の第一歩に
この研究における調査と実証は、地域や発達段階に応じて段階的に実施されました。防災教育の出発点となる保育施設では、静岡県内の施設を対象に調査・実証が行われています。
その結果、現場からは以下のような声が上がりました。
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避難訓練の改善は「必要」:99%
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専門的・継続的な支援を「受けたい」:97%
最も重要なのは、「改善できたか」ではなく、これまでの訓練が地域で想定されている災害に対して足りていなかったと、現場が自ら認識できた点です。想定と比較できる視点を持ったことで、初めて具体的な改善に向けた検討が始まったのです。
現場での変化
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静岡県(保育施設):画一的な姿勢や行動の指導に依存せず、周囲の状況を確認しながら回避行動を選ぶ指導へと方針転換が見られました。
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他地域での実践(小学生〜中学生):小学校・中学校段階では、想定される被害を踏まえた判断力の育成や、状況に応じた行動選択を重視した実践が行われています。
これらの結果から、防災教育は発達段階に応じて設計される必要があることが示唆されました。


研究者の声
江夏猛史氏(NPO法人 減災教育普及協会、日本大学危機管理学研究所研究協力員)
「現場で一番大きかったのは、想定を知ったことで、これまでの訓練が想定にさえ足りていなかったと気づけたことです。改善は簡単ではありません。だからこそ、比較できる状態をつくり、評価し、次につなげる。避難訓練を儀式で終わらせないためのアップデートを進めていきます。」
秦 康範教授(日本大学 危機管理学部)
「避難訓練が変わらないのは、個人の資質ではなく、設計と評価の問題です。災害の実態と訓練が結びつかなければ、善意であっても誤りは温存されます。本研究は、訓練を本番に耐えうる内容へ更新するための学術的提言です。」
関連情報
本研究の基礎となる論文や寄稿文も公開されています。
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学術論文:「地震時の身を守るための標語とポーズに関する一考察:「おかしも(おはしも)」と「ダンゴムシのポーズ」に着目して」(第56回地域安全学会梗概集, No.56, pp.327-328, 2025)
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寄稿文:「避難訓練をアップデートしよう!」(地域安全学会ニューズレター No. 133, 2025.10)

NPO法人 減災教育普及協会とは
NPO法人 減災教育普及協会は、被害を起点にリスクを捉え、安全を考える減災教育に取り組む団体です。防災が「防げる」ことを前提に語られがちな中で、同協会は教育を通じて、防げない被害や弱点を前提に、状況に応じて行動を選択できる力を育てることを目指しています。
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